血圧が高い患者さんに、注意が必要な理由は?
歯科診療中の痛みや緊張などの刺激で血圧が変動し、全身に影響が出ることがあるためです
概要
高血圧症は、日本で約4300万人が該当すると推計される生活習慣病のひとつです※。自覚症状が少ない一方で、脳卒中や心臓病などの発症リスクを高めることが知られています。
一見すると普段と変わらないように見えても、患者さんの体の中で血圧に変化が起こっている可能性があります。だからこそ歯科診療においても、「見た目だけではわからない変化が起こりうる」という視点が大切です。
※参考:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」
高血圧症とはどんな状態か
高血圧症は、単に血圧の数値が高いだけでなく、血管に常に強い圧力がかかり続けている状態です。
その結果、
・血圧を一定に保つ働きの低下
・血管の柔軟性の低下
・動脈硬化の進行
が起こり、 外からの刺激によって血圧が大きく変動しやすい状態になっています。
血圧の目安(基本情報)
血圧には、診療所で測定する「診察室血圧」と、自宅で測定する「家庭血圧」があります。
| 診察室血圧 | 家庭血圧 | |
|---|---|---|
| 高血圧 | 140/90mmHg以上 | 135/85mmHg以上 |
| 降圧目標 | 130/80mmHg未満 | 125/75mmHg未満 |
参考:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」
診察室では緊張によって血圧が高く測定される「白衣性高血圧」がみられることがあります。一方、診察室では正常でも家庭では高値を示す「仮面高血圧」もあります。また、家庭血圧は測定姿勢(手首で測定する場合、手を心臓より下げた状態で測定すると高くなる場合あり)や測定方法によって値が変動するため、正しい方法で測定することが重要です。

特に家庭で測った血圧は、日常の状態を反映する貴重な情報源です。
歯科診療の際にも、「ご自宅ではどのくらいですか?」と確認することで、全身状態をより深く理解できます。
さまざまな要因で起こる
高血圧症は、加齢、塩分の過剰摂取、肥満、運動不足、ストレス、遺伝など複数の要因が重なって発症します。
全身への影響
血圧の大きな変動は、
・心不全
・脳卒中
・狭心症や心筋梗塞
などにつながる可能性があります。
このように、高血圧は全身にさまざまな影響を及ぼします。高血圧のリスクについて、日本高血圧学会「高血圧の10のファクト~国民の皆さんへ~」では次のように説明されています。
・高血圧は、将来の脳卒中・心臓病・腎臓病・認知症の発症リスクを高める病気です
・日本では、1年間に17万人が、高血圧が原因となる病気(脳卒中や心臓病)で死亡しています
・上の血圧(収縮期血圧)を10mmHg下げると脳卒中・心臓病が約2割減少します
出典:「高血圧の10のファクト~国民の皆さんへ~」Ⓒ2025日本高血圧学会
歯科診療中に血圧が変動する場面
歯科診療では、ユニットを倒す・起こすなどの体位変換、痛みや緊張、局所麻酔の使用(局所麻酔時の緊張や、血管収縮薬(エピネフリン)の影響など)、長時間の開口、などで交感神経が刺激され、血圧や心拍数が変動する可能性があります。
治療薬が口腔内に与える影響
高血圧症の治療薬により、口腔乾燥、歯肉増殖(ニフェジピンなどのカルシウム拮抗薬)、味覚の変化などがみられることがあります。服薬を確認する際は、これらの口腔内所見と結びつけて考える視点を持ちましょう。
まとめ
高血圧症は非常に身近な疾患でありながら、自覚症状が少なく、見た目だけでは判断しにくいことが特徴です。だからこそ、歯科診療においても「変化は起こりうる」という前提で患者さんをとらえる視点が大切です。
また、問診票に記載がない場合でも、患者さんの様子や体調に目を向けることで気づけることがあります。「いつもと違うかもしれない」という視点を持つこと、そして必要時に血圧測定ができる環境を整えておくことが、患者さんの安全につながります。
監修:関谷 秀樹
東邦大学医療センター大森病院口腔外科 診療部長
東邦大学医学部口腔外科学教室 准教授
※監修者情報は公開時のものです。
