健康づくりはお口から

歯みがき習慣が根付いた今、口腔保健は新たな目標に向かって動きはじめています。口の中の健康維持が全身の健康維持につながることが分かってきたからです。口腔保健の今とこれからを考えます。

⑪歯ブラシの種類はさまざま 自分に合ったものを使おう

失敗しない歯ブラシ選び

ドラッグストアの店頭には、さまざまな歯ブラシが並んでいます。ヘッドが大きいもの、小さいもの、毛が硬いもの、軟らかいもの……。歯ブラシは、使う人や目的によって使い分ける時代になっています。
日本では、歯科医院を中心に「歯を1本1本ていねいにみがく」という指導方法が普及していますが、それを後押ししたのが日本独特の小さなヘッドの歯ブラシです。一方で、ヘッドが大きく毛が軟らかい歯ブラシは、細かく手を動かさなくても全体がみがけ、弱った歯ぐきをマッサージするのにも適しています。
毛質や植毛法など、日本の歯ブラシ製造技術は海外に比べて進んでおり、業界はさらに工夫を重ねています。上の図を参考に、自分に合ったものを選びましょう。

歯間ブラシやデンタルフロスを持ち歩こう

近年は、歯ブラシと併せて、歯間の清掃に使用するデンタルフロスや歯間ブラシ、タフトブラシなどの清掃具も使われるようになっています。 
ライオンは、1987(昭和62)年に、独自に円錐型歯間ブラシを開発しました。ナイロン毛を放射状に植毛したブラシの軸部分には、折れにくく曲がりにくいワイヤーを使用して耐久性と操作性をもたせました。他社からも、円柱型、樽型などさまざまな歯間ブラシが発売されています。
さらに、歯間の清掃用具には糸状のタイプの「デンタルフロス」もあります。デンタルフロスは糸状で指に巻きつけて使うタイプと扱いやすいホルダータイプが発売されています。
コンパクトな歯間ブラシやデンタルフロスは、持ち運びも便利。職場や外出先で、食事の後に簡単に使えます。手ばやく歯間の清掃ができますから、バッグの中にいつも入れて、持ち歩いてはいかがですか。
その他にも、ライオンはみがき残しがあるところにピンポイントで届く、ひとつの毛束の歯ブラシ「タフトブラシ」を発売。今では、こうした清掃具は、歯周病予防やメインテナンスに不可欠なものと考えられています。
口の中の状態は一人ひとり異なります。自分に合った用具を選ぶためには、歯科医院で治療や口腔ケアを受ける機会に、プロに相談してみるのもいいですね。

⑫かみ合わせの良さとかむ力 トップアスリートは歯が丈夫

スポーツ歯科の発展

例えば、重いものを持ち上げるとき、気がつくと歯を食いしばっていませんか。歯の状態やかみ合わせが筋力に作用することは、誰もが知らずに経験しています。それを科学的に研究しているのが、スポーツ歯科です。子どもから高齢者まで、楽しく安全にスポーツができるよう「歯と口と運動機能」の研究が進んでいます。

フィギアの選手はかみ合わせの力が強い

ある調査によると、歯の咬合力(かみ合わせる力)が大きいと、運動能力が優れているという結果が出ました(図1)。中学2年生を対象としたものですが、大人のスポーツ選手でも同様だといいます。
フィギアスケートの選手とスピードスケートの選手を比べると、フィギアの選手のほうが咬合力が大きいことがわかりました(図2)。奥歯の接触面積も倍になっています。歯をかみしめると関節が固定され、体の軸が安定します。柔道、レスリング、重量挙げ、体操、射撃、ボートなど、フィギア同様、「力」や「体のバランス」が関係するスポーツは、咬合力を求められるスポーツです。

オリンピック選手をサポート

あごや顔、歯や口の外傷予防もスポーツ歯科の課題です。ぶつかって前歯やあごが折れるというような事故は少なくないのです。国際歯科連盟は、スポーツマウスガードをすすめていますが、残念ながら日本ではまだあまり普及していません。
1987(昭和62)年から、JOC(オリンピック委員会)の強化指定選手は歯の定期検診を受けています。そこで重視されるのは「食べること」です。歯や口にトラブルがあると思うように食べられなくて、メダルどころではありません。むし歯は短期間で治療、また顎関節症を経験した選手には顎スプリントという装置をつけるなど、スポーツ歯科はそれぞれの対応で、選手の競技力向上に役立っています。健康な歯を持っていないと、スポーツで力を発揮することはできないのです。