口腔機能発達に取り組むことに不安があります
発達状況を観察するところから始めましょう
哺乳期は、口腔機能の発達が始まる最初のステージです。誕生直後の赤ちゃんの口の中には、顎間空隙や口蓋の吸啜窩があり、これはお乳を吸うために適した形態です。口唇で乳房に吸い付き、乳首を口蓋の吸啜窩に押し付け舌を動かして乳汁を吸うことで、吸啜・嚥下・呼吸の協調が始まります。この動きが「食べる力」の基礎を作り、舌・口唇・顎の動きはその後の咀嚼や発音へとつながっていきます。この時期の発達は姿勢や原始反射の影響を大きく受けるため、歯科衛生士が哺乳の様子を理解しておくことは、口腔機能発達の早期支援につながります。小児の患者さんが少ない職場でも、「口の育ち」を見守る視点を持つことが第一歩になります。
原始反射と口の動き
乳児の運動は脳幹由来の原始反射によって支配されています。ここでは、口の動きに関係する代表的な反射を紹介します。

探索反射(ルーティング反射):
頬や口のまわりに触れると、その方向に顔を向けて乳首を探す反応。授乳の始まりを助ける。
吸啜反射:
唇や口の中に乳首が触れると、自動的に吸う動きをする反応。吸う力で母乳やミルクを取り入れる。
捕捉反射:
口の周りや頬に触れた方向へ頭を向け、乳首を探すように口を開く反射です。出生直後の授乳を助ける生理的反応で、成長とともに随意的な吸啜へ移行します。
これらは生後6ヶ月ごろに消失へ向かい、残存は神経発達の遅れを示すこともあります。原始反射は他にも多くありますが、ここでは口腔機能に関係する代表的なものを取り上げました。
哺乳運動の発達
頬の動きも重要です。吸う力が強すぎると頬がへこみ、口のまわりに余分な力が入ります。頬がふくらんだりへこんだりしながらリズミカルに動くのが理想的です。
母乳では舌全体が乳輪を包み、顎を上下に動かして陰圧を生じさせます。人工乳では乳首の形や流量によって運動範囲が狭くなることもあり、哺乳びん(乳首形状)の選択が重要です。舌と顎の協調は、のちの咀嚼や嚥下の基盤となります。
姿勢と呼吸の協調
哺乳時は頭と体幹がねじれず一直線に保たれ、頸部が軽く前屈していることが理想です。頭が反り返る姿勢は舌根沈下を招き、誤嚥や哺乳の乱れにつながります。鼻呼吸の確保も安全な哺乳の前提です。
歯科衛生士の観察ポイント
・哺乳時に口唇を閉じ、自然な外反がみられるか
・舌と顎が上下運動して協調的に吸啜できているか
・吸啜・嚥下・呼吸がリズミカルに連動しているか
・吸うときに頬がへこみすぎていないか(吸啜圧が強すぎると口まわりがこわばる)
・頭頸部と体幹がねじれず一直線に保たれているか
・首が反り返らないようにまっすぐ支えられているか
・哺乳びんの乳首形状や流量が適切か
・口呼吸や鼻づまりの有無
保護者への声かけ
・「首が反り返らないように、体と頭をまっすぐ支えると飲みやすくなります」
・「乳輪までしっかり含ませると舌と顎の動きが育ちます」
・「乳首の穴の大きさは、月齢や飲みやすさを見ながら合うものを選んでみましょう」
・「寝ているときに口が開いていたら鼻づまりのサインかもしれません」
・「うまく飲めなくても大丈夫、少しずつ慣れていきます」
授乳の時間は赤ちゃんとの対話の時間でもあります。保護者が安心して関われるように、言葉がけや共感を大切に支援します。特に哺乳や体重増加に悩む保護者には、「大丈夫、できていますよ」と安心を伝える言葉が重要です。
まとめ
哺乳期の「吸う・飲む・呼吸する」動きは、後の食べる力の出発点です。舌や口唇、顎の協調が十分に育つためには、姿勢や環境の整え方、保護者の関わり方が欠かせません。歯科衛生士が哺乳や安静時の口の様子を観察し、ちょっとした助言を行うだけでも、口腔機能発達の支援につながります。まずは日常の中で、赤ちゃんの「口唇の動き」と「姿勢」に目を向けるところから始めましょう。
小児の口腔機能の発達は、月齢だけで一律に決まるものではありません。同じ月齢でも、体の成長、姿勢の安定、保護者との関わり、生活環境によって、発達の進み方には個人差があります。また、文献によって示される発達段階や目安の時期が異なることもあります。そのため、「何ヶ月だからできる/できない」と判断するのではなく、今、この子がどの段階にいるのかに目を向けることが大切です。歯科衛生士は、月齢よりも子どもの動きや表情、食べ方や飲み込み方を丁寧に観察し、その子に合ったペースで発達を支える視点を持ちましょう。
監修:朝田 芳信
鶴見大学 歯学部歯学科 小児歯科学 教授
※監修者情報は公開時のものです。
